色材 Q&A 02印刷・インキ

01塗料・塗膜   02印刷・インキ   03樹脂   04粉末関係   05分散   06色関係   07試験・分析   08環境関連   09その他

02. 印刷・インキ

Q1. 危険物でない水性インキと危険物ではない希釈剤を混ぜて使いました。混ぜたインキは,危険物といわれましたが,なぜですか。

ここでいう水性インキと希釈剤を,いずれも消防法で指定される危険物第4類に該当するかの範囲で考えます。消防法では危険物第4類に分類される物質は,形状は液体,危険性は引火性の危険性,試験方法は引火点測定試験,危険物となる性状は引火点が測定されることと定められています。水性インキと希釈剤はいずれも引火点測定で引火点が測定されず,危険物でないと判定されるわけですが,混ぜたインキについてあらためて引火点測定を行った結果,引火点が測定されたということになります。一般的には,ごくまれなケースのようです。
(H.F.)2b7511072

Q2. なぜEBによるインキ・コーティング硬化システムはなかなか普及しないのですか。

電子線(EB)により硬化・乾燥するEBインキは,紫外線(UV)で硬化するUVインキとともに,「活性エネルギー線により瞬間的に反応・硬化するRadiation Curing Ink」に分類されます。①溶剤等の揮発分を含まない「無溶剤型インキ」であること,②熱乾燥に比べ低エネルギーで硬化・乾燥しエネルギー効率に優れること等の特徴から,その機能性・生産性のみならず環境対応型インキとしても利用が期待されております。またとくに電子線照射の特徴として,①光重合開始剤が不要,②高濃度の印刷の硬化が可能,③高架橋・低抽出の被膜形成が可能,④基材(フィルム等)の表面処理効果によるインキの密着性の向上等が可能,⑤印刷と同時に殺菌処理が可能等,様ざまな機能を付与することができます。
現状では,電子線照射技術は,タイヤの架橋,電線の被覆,医療器具の滅菌等の用途では汎用的に利用されているものの,インキ・コーティングの硬化手段としては限られた用途での利用にとどまっています。その理由としては電子線照射装置が非常におおががりなものであることが挙げられます。真空中で発生させた電子を薄膜のウインドウを通して大気中に照射するのが電子線照射の基本的な原理で,電子線の照射と同時に発生する2次X線の発生量は照射エネルギー(加速電圧)レベルに比例するため,高加速電圧の装置ですと,電源のコスト・サイズのアップとともにX線を遮蔽するための遮蔽材も大型化し,結果として非常におおがかりな装置になってしまいます。
ただし最近は,電子線照射装置メーカーの中には,小型で扱いやすい低加速電圧の電子線照射装置の開発・販売に力を入れているところもあり,一部には卓上サイズの非常に小型な装置も市販されており,EBの特徴を活かした様々なアプリケーションの提案が行われております。
今後は,環境への関心の高まっていく中で,とくに低加速電圧の電子線照射装置による硬化システムの利用拡大が期待できます。
(Y.A.)2a7511071

Q3. 高精細印刷とはどのような印刷ですか。

印刷画像を拡大すると小さな色の点(網点)が色ごとに一定の間隔で格子状に並んでいるのがわかります。通常の印刷では網点の線密度は1インチあたり175線程度です。これを300線以上にしたのが高精細印刷で,現在では1000線のものまで発表されています。
高精細化の手法には二つの方法があります。一つは網点のピッチをより細かくすることで高精細化をはかるもので,網点の列間隔が一定のまま,階調に応じて網点面積を変化させるという方法です。すなわち周波数が一定で振幅の大小を変化させることから,AM(振幅変調)スクリーニング法とも呼ばれます。
もう一つの手法は,網点を形成している個々のスポット(直径=10~20μm)を一単位として,このスポットの面積を階調に応じて変化させるものです。すなわち振幅を一定にしたまま,スポットの集合密度(周波数)を変化させることから,FM(周波数変調)スクリーニング法とも呼ばれます。このため個々の小さなスポットレベルで濃淡分布が表現でき,解像度が向上するなどの多くの利点が見られます。
高精細印刷による印刷物では,図柄細部の解像力や,色濃度の淡いハイライト部から中間濃度部にかけての色の彩度が向上します。また従来の4色刷から多色刷りも可能になり,青紫,緑,橙等の色も濁りの少ない色彩表現ができ,写真のような高画質が再現できます。とくにAMスクリーニング法では,従来の印刷物に見られた網点と原稿画像の規則的な模様との干渉によって生じる模様(モアレ)や,網点パターンの刷り重ねによって生じる亀甲状の模様(ローゼット)などによって引き起こされる画質の低下が,網点スクリーン線数が300線を超えるとほとんど見られなくなります。またFMスクリーニング法ではスポットがランダムに分布するため,これらの干渉模様は発生しません。こうした特徴から高精細印刷は商業用ポスターや写真集,高級美術印刷などに用いられています。 (T.Y.)2a7509066

Q4.印刷物の絵柄を観察してどのような印刷方式(版式)で行われたかを判別するポイント(特徴)は何か,その方法を教えてください。

1) 写真再現に網点を使っているかどうか
写真の再現については,まずルーペで覗き,網点を使っているかどうかを確認することです。オフセットには網点が入っていますが,網グラビアには網点と一緒にセルと呼ばれる等間隔のマス目があります。グラビアでは写真原稿を再現する際に,原稿の濃い部分は版を深く,淡い部分は版を浅く腐食させ,そこにためたインクの量でグラデーションが出るようにしているのです。
オフセットでは,原稿の濃い部分は網点を大きく淡い部分は網点を小さくして,そこに付着したインキの量で濃淡を出します。オフセットはハイライト部の再現に適していますが,印刷の濃度域は他の版式よりも狭いため,全体にフラット気味の仕上がりになります。

2) 文字やベタ部の形はどうなっているか
階調表現をする必要のない文字や罫線,ベタの部分については,一番見わけやすいのがグラビアです。ルーペで文字や罫の部分を覗くと,きれいな線ではなくギザギザになっているのがわかります。これはゴシック系の文字よりも明朝系の文字の横線,つまり,より細い線を調べるとはっきりわかります。
また,ベタの部分には,時としてモットリング(mottling)といわれるインクの流れこみ現象が見られます。これは,グラビア用インクがやわらかいため,ベタの部分にインクをたくさん盛る際に,余分なインクが流れてしまうのです。そのため,ムラが生じたように見えます。
ベタの部分といえば,オフセットはきれいですが,ムラが生じることがあります。これは,ベタの面積が広くなればなるほど,その傾向が強まります。
また,細い罫の部分などを拡大して見ると,版についたインクが印刷の際の圧力によって外側に押し出され,線の周囲ににじみ出すのも,活版印刷の特徴です。 (E.F.)2b7507063

Q5. カラー印刷はなぜ網点で作成するのですか。

カラー印刷は,もともと無限の連続諧調である透明や反射原稿「カラーポジ」をいかに忠実に再現したものを得るか,が最終目標である。たとえばカラーポジが透明原稿の場合は濃淡(ダイナミックレンジという)の幅が広く,色再現域が広い。このような原稿を印刷物とするためには,このダイナミックレンジを調整する技術が必要で,これをカラーレプロダクションという。カラーレプロダクションには,原稿のダイナミックレンジを調整すること,透明RGBに対応する補色の反射CMYへの版を作成する,色分解作業が重要なプロセスとなる。透明RGBに比べ反射CMYに100%分解できれば3色ですべてのダイナミックレンジ内にある色を再現できるが,現実はインキの色には濁り成分があり3色グレー部分を補完するUCR(Under color removal)処理を通じBK(ブラック)が使われる。いろいろなダイナミックレンジを持つ濃淡諧調と色再現域の調整を経て網点化することで初めてカラー印刷物を得ることができる。これがCMY+BKの4色で印刷する理由となる。最近ではカラーマネジメント技術が発展しており,カラー印刷は原稿受け入れから,トーンリプロダクション,さらに刷版製版までコンピュータによる一貫処理ができるようになった。
現在この印刷3方式のなかでは,印刷枚数,印刷品質,印刷機のハンドリング性,総合的なコストの面からオフセットが主流となっている。
黒いドットとドットの間(a)が網点の解像力(スクリーン線数)に相当する。たとえば150線のスクリーン線数の最小ドット0.5%の網点の直径が12μであり,人間は目視では差別化できない。300戦ともなれば限りなくカラー写真品位に近い。 (S.I.)2b7504057

Q6.印刷になぜ網点(halftone)が必要なのですか

400年前に発明されたグーテンベルグの謄写を原理とする多数枚ハードコピー作成法は,産業革命を経て,戦後に連続諧調画像を網点に置き換えるコンタクトスクリーンの登場,70年代に登場したコンタクトスクリーンを搭載したカラースキャナーなどにより発展を遂げた。21世紀に至る今日においても,工業的な多数枚複製手段として,オフセット印刷やグラビア印刷などの手法を用いられているのは周知の通りであり,基本原理は変わっていない。
多数枚を同じ品質で複写を行うこと=印刷と呼ぶ。この印刷は,平版,凸版,凹版の版式があり,写真や絵画などのようにハイライト(明部)からシャドウ(暗部)までに渡り種々の調子の濃淡をもつ画像を再現する場合,平版と凸版において,ハーフトーン法が用いられている。
ハーフトーン法は,諧調画像を微小要素の集まりに分割し,その面積の大小により諧調を再現する方法である。ハーフトーン法は,印刷版上でのインキ膜厚を変えることはできない。それは版上のどこの部分においても一定膜厚で被印刷体(紙)などに転写されるが故である。
したがって,ハーフトーン法は厚み方向の濃淡の変化ではなく,横方向すなわち面積の変化による諧調再現法といえる。実際には,85線~300線/1インチ当り(1インチ当りの網点列の数)をスクリーン線数とよび,印刷物解像力の目安とし,仕上がり品質や目的によりスクリーン線数は変化する。
連続諧調を厚み方向で印刷することができるのは,凹版印刷であるコンベンショナルグラビアである。画像の濃淡に応じてインキ膜厚を変化させることができるので,原理的には連続した濃淡そのものの印刷が可能である。紙幣の印刷がこれに代表される。

Q7. カラー分解インキ(スクリーン)の最適インキ物性はどの位ですか(フロー,粘度など)。

カラー分解インキ(スクリーン)の意味を平版印刷の4色分解と取り説明します。
印刷のためのカラー分解は,一般的には4色のインキを使用することを想定して分解されています。この4色のインキは黄,紅,藍,墨でプロセスカラーインキと呼ばれ,オフセット印刷で最も多く使われているインキです。プロセスカラーインキの物性は,オフセット印刷に支障を起こさないような範囲で設定されています。インキの物性としては,タックバリュー(TV),ダイアメーター(DM),粘度等があります。タックバリューはインキが分裂する時の抵抗を表し,値が大きいほど粘りが強くなります。原則的に後から印刷するインキのタックを,さきに刷られるインキよりも小さくします。DMはインキの流動性を表し,インキに荷重をかけた時に同心円状に広がる直径を表します。DMが大きいほど流動性が高くなります。粘度は,狭い隙間にインキを挟んでずらせた時のズリ抵抗の度合いを表します。粘度が大きいほど,一般的には硬いインキとなります。これらの物性の関係として一般的に,タックと粘度は増大,DMは減少します。下表にプロセスインキの物性値の一般的な範囲を示します。

枚葉インキ物性値
TV DM (mm) 粘度 (mPa s)
6-11 37-40 22-27
8-12 36-38 25-35
9-13 36-38 25-35
8-12 34-38 22-30
オフ輪インキ物性値
TV DM (mm) 粘度 (mPa s)
4-8 41-45 12-17
4-8 41-45 13-19
5-9 42-44 17-23
5-8 39-43 12-17

プロセスインキの最適な物性とは,
・その印刷条件において最も色再現性が優れた印刷物が得られる。
・刷り始めから終わりまで,支障をきたさず印刷ができる。
物性であると定義できると考えられます。
寒い時期には軟らかめ,暑い時期には硬めのインキが選ばれます。また,印刷条件にもよりますがほとんどの場合,表に示された範囲内に,その印刷条件に最適な物性が存在しています。(K. H.)2a7402032

Q8. インクとインキの違いを教えてください。

印刷学会出版部発行「印刷インキ入門…増補版:相原次郎著」のページ5(2)印刷インキの項にインキという言葉の由来が下記の通り紹介されています。
「世間ではインクという言葉と,インキという言葉が混用されており,たとえば(広辞林)でインキの項を引くとインクを見よと指示してある。インキという言葉は英語のInkから転化したように思われがちであるが,実はこの外来語のふるさとはオランダである。江戸時代の中期に,オランダ語のInktが蘭学と共にわが国へ入ってきて,インキ,インキトまたは阿蘭陀墨(オランダすみ)という形で,同じオランダからの外来語のペンとともに使われ,当時の文献にかなり現れているという(矢崎源九郎,“日本の外来語”,p.79,岩波新書:“コンサイス外来語辞典”,三省堂)。インキには,筆記用インキと印刷インキがあるが,両者は組成的にも機能的にもかなりの相違がある。その点ドイツ語では,筆記用インキがTinte(Schreibtinte)であり,印刷インキはFarbe(Druckfarbe)というように,はっきり区別しているのが面白い。 (T.Y.)2b7505059

Q9. 湿し水のpH値は印刷適性に重要なのですか。

湿し水にはアルカリ性,中性,および酸性の3種類があります。
従来,新聞印刷用途ではアルカリ性湿し水がほとんどであったのに対し,その他商業印刷用には酸性の湿し水が使われてきました。まず,この違いに疑問を持たれる方が多いと思います。新聞印刷でアルカリ性湿し水になった一番の理由は,湿し水によって版面非画像部を十分に保水し,非画像部上のインキの洗浄性を高めるため,湿し水に珪酸塩などのアルカリ性塩が添加されてきた経緯にあります。珪酸塩などによる洗浄性は,非画像部の保水性が強くなるアルカリ性でのみ十分に発揮され,中性,酸性領域では低下してしまいます。一方,商業印刷では版面非画像部の保水性を高めるため,酸性領域でなければ十分に親水性や洗浄性を示さない成分,例えばアラビアガムが使われてきたことが理由です。これも中性,アルカリ性領域では十分な性能を発揮しません。アルカリ性湿し水も酸性湿し水も,湿し水に第一に要求される版面非画像部の洗浄性を上げることで印刷適性をよくするため,pHを中性からずらす必要があったという点で共通しています。
印刷資材である紙,インキはもとより,湿し水中に繁殖する場合のある微生物などの影響によっても,pHは初期値からずれることがあります。アルカリ性湿し水が中性へ,さらには弱酸性へと変化した場合,あるいは酸性湿し水が中性へ,さらには弱アルカリ性へと変化した場合には,上記から明らかなように十分な版面洗浄性が得られなくなり印刷適正が悪化することがあります。ご質問のpHの重要性はここにあります。
近年の環境問題は湿し水についても例外ではありません。湿し水排水の処理による負荷の軽減をめざし,新聞印刷で中性の湿し水が注目され始め,徐々に広まってきています。すでに国内の新聞印刷用湿し水の10%あまりが中性に置き換えられているとみられます。中性化への動きは,中性でも十分な洗浄性をもたせられるように技術革新が行われてきていることが鍵となっています。 (M.K.)2a7503054
Q10. オフセット印刷とスクリーン印刷の材料の主な違いを教えて

Q10. オフセット印刷とスクリーン印刷の材料の主な違いを教えてください。

スクリーン印刷は紙はもちろん,布,木材,プラスチック,ガラス,金属といった幅広い材質の表面に用いられ,非平面の基材も対象となります。オフセット印刷は,一部,プラスチック等の非吸収面に行われますが,ほとんどが紙を対象とします。当然,基材の材質が異なればインキに求められる性能,従って材料が異なりますので,ご質問の趣旨は「紙を対象とするスクリーン印刷(Stencil printing)とオフセット印刷(Offset printing)におけるインキ用材料の違い」とさせていただきます。
最も大きな差は印刷機構の違いによります。オフセット印刷では版の画像部と非画像部に対するインキと湿し水の親和性の違い,およびインキの湿し水による乳化状態を制御し,版の画像部のみを経由してインキが紙面に転移するようにしています。このため,界面活性剤等で微調整が行われますが,基本的にはインキを疎水性にします。これには,顔料,樹脂,溶剤等の主成分が疎水性で水への溶出成分を含まないことが必要となります。また,インキは薄膜で版と接する状態をつくるのに何本ものローラーを経て練り込まれるため,低~高せんだん域において適度な粘弾性を持ちローラー転移性を有するよう工夫がなされています。これには分子量やゲル化による調節ができるものでなければなりません。主成分のうち樹脂については主に変性ロジン樹脂,変性フェノール樹脂,アルキッド樹脂,および石油樹脂が使われますが,これら印刷適性上の要求により使用可能な材料は絞り込まれます。
Stencil printingと呼ばれる紙へのスクリーン印刷ではこのような印刷適性は必要とされません。その代わり,スクリーンから紙へのインキの移動を安定させるために,インキの粘弾性,流動性の制御が重要であり,それに適した材料の選択がなされます。インキは,通常,40~60%ほどの水を含むW/Oエマルジョンとなっており,それにはオフセットインキではあまり使われない界面活性剤が用いられます。これはエマルジョン破壊により紙面に水が浸透することで,続く油性成分の浸透が抑制され,紙面上で画像の裏抜けを防ぐためのものです。オフセットインキ用材料の多くはスクリーンインキ用途にも使用可能ですが,その逆は限られます。 (M.F.)2a7412049

Q11. オフセット印刷におけるロール間転移に関する挙動。例えば,インキ物性の違い,ロール材質の違いなどにより,どのように異なってくるのですか。

オフセット平版印刷機では印刷インキはインキダクトから多くの練りローラを経て印刷版に到達する。このように多くの練りローラがあるのは,インキのチキソトロピー性を考慮し,インキの流動性を十分に付与することと,この広いローラ表面で,刷版から上昇してくる湿し水を蒸発させ,インキダクトに湿し水が到達するのを防ぐためである。
このように平版オフセット印刷の印刷適性は常に湿し水と印刷インキとの関係を考慮しなければならない。湿し水がインキの中に乳化することによってインキのレオロジー的性質も変化し,インキの転移率,色調,網点再現性などに変化を与える。それゆえ湿し水の乳化によってインキの物性がいかに変化するか十分把握して制御する必要がある。近年,新聞印刷に用いられるキーレスシステムにおいては,とくに必要である。
湿し水がインキに乳化するに従い,インキの粘弾性は複雑に変化する。一般にショートネスが増し,インキのタックが減少する。そこでローラ間のインキ転移も不十分となり色調などにも変化を来す。印刷機の熟練工はローラ間のインキ分裂音により湿し水乳化の度合いを判断するといわれているが,これはローラ間のインキ分裂音の音響解析によって実証された。
一方,乳化とは若干違うが,湿し水が練りローラに達することによって,金属ローラにインキが転移しないローラストリッピングの現象が起きる。このような場合は希塩酸などで金属表面を清浄にするか,あらかじめ金属表面に親油性の銅メッキを施すか,テフロン膜を焼き付けると効果がある。
ローラ間のインキ転移はローラ材料によっても影響を受ける。一般に練りローラ群は金属ローラとゴムローラが交互に組み合わされているが,金属ローラの材質による差は少ない。ゴムローラから金属に転移する場合は,ゴムローラ上のインキ量が増すに従い転移率は50%に収斂するが,金属ローラからゴムローラに転移する場合は,金属ローラ上のインキ量が増すに従い転移率は下がり,50%より少ない量に収斂する。
つぎにゴム状物質を変えた場合,表面の耐油性によって大きく異なる。耐油性の大きなニトリルゴムは小さな天然ゴムに比べ,金属からの移りが悪く,逆に金属への与え方が大である。
練りローラにおける問題の一つにミスティングがある。これはローラ間でインキが練られる際に,一種の摩擦が生じ,電荷を帯びたインキの微粒子を発生させることがある。これがミスティングで,印刷物や印刷室を汚染するため嫌われるが,幸か不幸かオフセット平版印刷では湿し水の乳化に伴いインキの導電性が増すため,帯電摩擦によるインキミスとが生じにくいといった事情がある。(K. H.)2a7403034

Q12. 印刷物の表面状態を観察するとき,「艶」「光沢」の有無が問題とされますが,両者に違いはあるのですか。

印刷では,普通「光沢」(グロス)も「艶」も同じ意味で使われます。光沢の現象はなかなか複雑で捉えにくく,これを定義することも簡単ではありませんが,一定方向から投射した光に対して,表面で決まった方向に反射する割合が大きいほど光沢が高い(艶がある)といえます。
肉眼による光沢の比較はかなり大まかなもので,「艶がある」,「光沢がある」,「半光沢」,「無光沢」など意味する範囲の広い表現が使われますが,これを数値化する場合は,評価対象面に一定の入射角度(例えば垂線に対して60度)の光を投射し,反対側の同じ角度で捉えた光の量が,同条件での標準ガラス板の時の光の量の何%に当たるかを表示しています。つまり,一般的に表面が平滑なほど入試角度と同じ角度で反射する光の割合は大きくなりますので,光沢値は高くなります。印刷インキの膜厚は比較的薄いので,その表面の平滑性は下地の用紙の表面状態(凹凸や吸収性)に大きく左右され,一般に塗工紙は非塗工紙に比べて光沢のある印刷物が得られます。
なお,印刷インキの光沢は見かけの色にも影響し,同一の反射率の黒でも光沢のある黒インキの方が黒く見え,また,同じ色インキでも艶着けしたものの方が色が冴えて見えます。これは,光沢があるほどインキ表面で反射した照明光(≒白色光)が目に入る割合が少なくなるためと考えられます。(H. F.)2a7405038

Q13. 印刷適性の良い粘度規格は?

印刷インキは,使用する版によって平版インキ,凸版インキ,凹版インキ,孔版インキの4種類に大別され,それぞれの印刷様式に対応できることがインキの粘度設定の上で最も重要となる。一般に,グラビアインキ(凹版)の場合は水(約1mPas)の数倍~数十倍程度の粘度が適しており,凸版インキはこれより高粘度が求められ,孔版インキや平版インキはこれに次いで高粘度が要求される。版の種類に加え,印刷機のインキ供給方式や印刷スピードによって印刷に適するインキの粘度は大きく左右され,これに応じた粘度設定をする必要がある。通常は印刷スピードが高くなるほど低粘度のインキが要求される。
版の様式および印刷機が固定された場合においても,インキに求められる要求品質は多種多様にわたり,粘度が影響すると予想される要求品質だけをとってみても,粘度が高いことがポジティブに作用するケースとネガティブに作用するケースがある。そのため,どの要求品質が重視されるかに応じて粘度規格を設定しなければならない。たとえば,印刷機上での転移性が重視される場合はインキの粘度は高い方が有利であり,逆にレベリング性が重視される場合はインキの粘度は低い方が有利である。
また,印刷インキは顔料分散系であるため,粘度規格を設定する際は異なる面からの注意が必要となる。分散系の場合,往々にして非ニュートン性を示すので,同一の物質であっても測定する剪断速度によって粘度が異なる。印刷インキの場合も同様で,通常は低剪断速度で粘度が高く,剪断速度の上昇とともに粘度が低下するshearthinningという現象を示す。したがって,印刷機上の各ポイントにおいてインキが実際に受ける剪断速度範囲での粘度測定を実施して規格化する必要がある。例えば,インキの輸送や供給部では1~100(1/s)の中程度の剪断を受け,ローラー間では1000(1/s)以上の高速剪断を受けるのが一般的である。通常は剪断速度の範囲ごとに測定器を使い分ける必要があり,1000(1/s)以上の高剪断速度範囲は毛細管型,それ以下の剪断速度範囲は回転型(コーンプレート,二重円筒型等)を使用する場合が多い。測定する剪断速度範囲によって粘度が異なることに関しての取り扱い方については:色材,73,521(2000)に掲載の“同じインキを測定しているのに異なる粘度や降伏値が得られる問題について”のQ&Aを参照のこと。(E. Y.)2b7404037

Q14. 印刷に適したインキとは,どのような特性をもっているのですか?また,それらの特性を知る方法を教えてください。

印刷インキの種類は用途により異なるが,ここでは一般的に出版,商業印刷に用いられるオフセットインキを例に説明する。
インキの品質の良否を判断する場合,1)印刷工程上の適性(印刷適性)と,2)印刷物になってからの効果,適性に大別できる。
(1)の印刷適性は,a)粘着性,b)粘度,流動性,c)乳化性,d)セット,乾燥性等の指標値で評価される。
(2)の印刷物の効果,適性は,f)濃度,発色性,g)網点再現性,着肉性,h)光沢,i)耐摩擦性,耐光性等で評価される。

(1)の印刷適性に関る特性から説明を進める。
a)粘着性は通常「タック」という値で管理され,ローラー間でインキ皮膜が分裂される時の抵抗値である。適度なタックを持ったインキを使用しないと,転移不良,トラッピング不良,紙むけ等の問題を引き起こす。測定には,インコメーターが使用される。
b)粘度,流動性は,スプレッドメーター,ラレー粘度計,傾斜ガラス板,レオメーター等の機器で測定され,インキ壷適性,ローラー間転移性,網点再現性,着肉性等に影響を与える。タック値と共に,印刷スピード,用紙の種類により適正な値に設定する必要がある。
c)乳化性はオフセットインキにおいて大切な適性で,過度に乳化すると転移不良や汚れの問題を引き起こす。反対に乳化しなくても,印刷物が湿し水であおられたり,濃度振れの原因となる。乳化量と共に乳化速度を各種機器にて測定する。
d)枚葉印刷では印刷直後の裏付きの問題からセット性が,オフ輪印刷ではこすれ等の問題から乾燥性が重要な項目として挙げられる。

(2)印刷物の効果,適性面では,
f)濃度,発色性は原稿再現の上で基本的な性能である。オフセット印刷では印刷階調を網点で再現するため,ベタ部の濃度を一定に合わせた場合,写真画像の網点再現の良否で印刷物の品質が大きく左右される。
g)網点再現はドットゲインカーブから知ることができ,網点の太り(ドットゲイン)が少なく,網点形状のきれいなインキの方が階調性の良い印刷物を作ることができる。ベタ部はルーペ等でのぞき“す抜け”のない着肉(つぶれ)が求められる。
h)光沢も印刷物の良否を決める上で大きな要因である。インキを設計する上で光沢とセット,乾燥性は相反する性質を持っており,高光沢でかつ高セット,高乾燥のインキが求められる。
i)耐摩擦性,耐光性といった耐性は印刷物の種類により求められる程度は違うが,雑誌の表紙やポスター等には高い性能が求められる。(Y. M.)2a7401030

Q15. インキのプリンタビリティー(印刷適性)と呼ばれる項目には,どのような特性が含まれていますか。また,どのようにして計測評価されるのですか?

印刷では,印刷機上で連続的に,インキが版面に供給され,被印刷体上に画像が形成される。この際,インキには適切な転移性と忠実で安定した画像再現性が求められる。これを実現するためのインキ特性を総称して,印刷適性と呼ぶ。その評価方法は,印刷の方式(平版,グラビア,スクリーン等)により異なる。
たとえば,平版印刷用インキについては,JISK5701.1に記載された諸特性の内,スプレッドメーターやL型粘度計による粘度評価,タックメーターによる粘着性の評価,簡易展色機やプリンタビリティーテスターを用いて得られる展色物の濃度・光沢の評価等が印刷適性の評価に該当する。さらに,印刷機上でインキと湿し水とが乳化することを想定した乳化試験や,粘度や粘着性の経時安定性を評価することも含まれる。
しかし,個々の代用特性の評価では,総合的な印刷適性を把握することは困難であり,最終的には,本機を用いた印刷テストで印刷適性を評価するのが一般的である。(K. M.)2b7308020

Q16. インキの特性値である粘度や降状値の測定器にはいろいろな種類があり,同じインキを測定しているのに異なる値が得られます。このような問題をどう取り扱えばよいですか。

インキの粘度が測定器によって異なる理由はインキが非ニュートン性を有するからである。水や油のようなニュートン性を示す物質の場合は測定する剪断速度が異なっても粘度が変化しないため,どのような測定器を用いても同じ値が得られる。それに対し非ニュートン性を示す物質の場合は剪断速度が変化するとこれに伴って粘度も変化する。インキに多く見られるのは低い剪断速度で粘度が高く,高い剪断速度で粘度が低下する擬塑性流動と呼ばれるタイプの非ニュートン性である。
JISK5701(平版インキおよびとっ版インキの試験方法)に採用されているL型粘度計の測定剪断速度範囲はおおむね数百(1/s)程度であるが,JISK5702(新聞インキ試験方法)に採用されているブルックフィールド型粘度計の測定範囲はL型粘度計よりも一桁程度低い範囲しか測定できない。
その結果として,擬塑性流動を示すインキの場合,L型粘度計で測定される粘度値は低く,ブルックフィールド型粘度計で測定される粘度値は高くなる。また,降伏値が測定器によって異なる理由も粘度の場合と同様に測定器の剪断速度範囲の違いによることが多いようである。剪断速度を変えて粘度曲線を測定し,剪断速度が0の応力値を外挿によって降伏値を決定する手法の場合はどの剪断速度範囲を測定するかによって外挿値が異なり,この結果測定器によって異なる降伏値が得られてしまう。
粘度や降伏値等の特性値を品質管理に用いる場合は常に同じタイプの測定器を用い,剪断速度を特定の範囲に限定して測定を行うことでこの問題を回避することが必要になる。製品設計等の開発・研究目的の場合は,粘度を一定の値とは見なさず,広い範囲の剪断速度で粘度曲線を測定することが必要である。このためにはコーンプレート型等の,いわゆるレオメーターと呼ばれる装置が必要になる。降伏値についても外挿で求めるのではなく,応力制御型のレオメーターを用いて決定する等の工夫が必要だろう。(T.K.)2b7310025

Q17. インキのブロンズ現象はなぜ起こるのですか。

レーキレッドCなどの顔料を使用した金赤インキやアルカリブルートーナーを多く加えてある墨インキなどは,乾燥後の印刷面をいろいろな角度から見てみると金属の輝きに似た複雑な微妙な色が地色の上に浮かび上がってくるのが観察される。これをブロンズ(Bronze)と呼んでいる。
これらレーキレッドCやアルカリブルートーナーは透明な有機顔料でありインキとして白紙上に印刷するとそれぞれ赤および青紫の色を示す。その表面にブロンズが浮かんでいる訳だが,黒紙上に印刷すると本来の色光分が黒に吸収されてしまうので表面のブロンズ色だけがよく観察される。そのようにして観察するとレーキレッドCでは緑みのブロンズが生じており,アルカリブルートーナーでは赤味のブロンズの発生が観察される。
ブロンズの発生についてはさまざまな理論が発表されているが,あまり明確にはなっていない。ブロンズを示している塗膜を電子顕微鏡で調べた結果,表面に不規則な大きさの粒子が層を形成しており,この表面層で色光が不規則に選択的な反射をするためにブロンズが生ずるという説がある。ブロンズのある面を水や油で濡らしたり,上刷りニスをかけたりするとその面のブロンズは消失してしまうが,これはこの説と良く合致している。このようなブロンズを表面ブロンズと呼び,玉虫の羽根やシャボン玉のように膜面で反射した光が干渉して色を生ずるものを干渉ブロンズと呼ぶ場合もある。
また金赤などの場合はギラギラした感じのブロンズが艶と混同されることもあるが,現実にはグロスタイプのインキなどで艶を出すほどブロンズは減少していくことが知られており,ブロンズと艶は両立しないものである。
その他にもブロンズの発生には顔料の結晶構造や屈折率が関連しているとの説もあるようだが,どれが正しい理論なのか,それともこれらの複合効果によるものなのかはっきりしない微妙な発色がブロンズである。(T. G.)2c7309023

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