色材 Q&A 06色関係

01塗料・塗膜   02印刷・インキ   03樹脂   04粉末関係   05分散   06色関係   07試験・分析   08環境関連   09その他

06.色関係

Q1. プロセスカラーインキの紅・藍インキに使用されているカーミン. B,シアニンブルーは,理想的な分光反射を示さないにもかかわらず,なぜ使用されているのですか?

最も大きな理由は,理想的な分光反射特性を持つ材料は,耐候性の面などに問題があり,現在も,カーミン6B,シアニンブルーが使われているといえる。
この問題を考えるにあたり,理想的な分光特性を持つ色材と色刺激について検討する必要がある。色は,光源からの光による光源色と,物体の表面から反射される物体色に分けられる。光源色は混合することにより明るくなることから加法混色と呼ばれ,物体色は混合することにより暗くなることから減法混色と呼ばれる。それぞれの混色で用いられる原色は,加法混色ではR(レッド),G(グリーン),B(ブルー)の三色が,減法混色ではC(シアン:藍),M(マゼンタ:紅),Y(イエロー:黄)が用いられる。これはどのような色でも三種のお互いに独立する原色の和で表されるという視覚の三色性を基礎としたものである。
ここで重要な課題は,どのようにこのお互いに独立する三色を作成するかということである。プロセスカラーインキ等の減法混色の場合,原色の混合量と混合色の分光反射特性の関係が,きわめて複雑で,加法混色のように簡単には成立しないという問題がある。例えば,C,M,Yの三色を単純に同じ割合で混合しても黒を再現することはできない。やや赤みがかった茶系の色となってしまう。これは三色の分光特性が完全独立でないことや,原色を重ね合わせた時の光の散乱により,色の見え方が違うことが原因になっている。このような複雑な減法混色を実現する上で,印刷の耐候性という実用面との兼ね合いを考えた場合,現在最も良いとされるのが,カーミン6B,シアニンブルーとされている。(T. K.)6a7308019

Q2. 人間の比視感度を考えると,マゼンタやシアンのようなものは,人間の目の感度の弱い部分に高い分光反射率を示すので,人間の目でははっきりと区別できないのではと考えてしまいますが,そのところはどうなのでしょうか?

比視感度(最近は分光視感効率と呼んでいる)は明暗(正確には輝度)に対する視覚系の感度であって,色を識別するメカニズムは別のものです。人間の網膜には光を感じる3種類の細胞があり,それらは分光感度の違いから,短波長感錐体(S錐体),中波長感錐体(M錐体),長波長感錐体(L錐体)と呼ばれております。分光視感効率はこのL錐体とM錐体の出力の和に対応し,輝度の情報を伝達するメカニズム(輝度チャンネルなどと呼ばれる)の感度に相当します。一方,色の識別は異なる錐体細胞の出力の差の情報を伝達するメカニズム(反対色チャンネルと呼ばれる)でなされ,L-Mの赤―緑反対色チャンネルと(L+M)-Sの黄―青反対色チャンネルの二つがあります。シアンやマゼンタは短波長域に高い分光反射率をもつので,S錐体からの出力が大きい色です。S錐体の出力は輝度には影響を及ぼしませんが,色には強く影響を与えます。別のいい方をすると,マゼンタやシアンは,輝度は低いが色みは強く感じられます。ここで,「輝度」といっているのは,「明るさ」と区別するためです。「輝度」は分光視感効率によって定義されますが,「明るさ」は直接我々が見て感じる主観的な量です。これまでの研究で「明るさ」は輝度チャンネルに加え,2つの反対色チャンネルの出力が影響をしていると考えられております。輝度は等しいが,色の異なる二つの色刺激は色が鮮やかな(反対色チャンネルの出力が多い)方が明るく見えます。これはヘルムホルツ・コールラウシュ効果と呼ばれております。つまり,マゼンタやシアンは,輝度は低いが,色みが強いので,その分,明るく見えることになりま
す。 (Y.A.)6a7508064

Q3. 色空間と測色光源は,どういう関係ですか。

色を測定して色空間によって表現するためには,用いる照明光源を定めておく必要があります。現在,その測色用光源には,3種類の標準の光と4種類の補助標準の光が定められております。標準の光は,標準の光A,標準の光C,および標準の光D65の3種類です。これらは日常生活によく用いられる照明光源のなかから,白熱電球の光と昼光を選び,それらの代表的な分光分布を定めたものです。標準の光Aは白熱電球を代表する光として1931年に定められたもので,相関色温度は2856(K)です。標準の光Cは昼光を代表するために,標準の光Aと同様に1931年に定められたもので,相関色温度は6774(K)です。しかし,標準の光Cは紫外部の分光分布の値が少ないので,蛍光物体色などの評価には不十分です。そこで,紫外部も含む物体色を表現するために,相関色温度6504(K)の標準の光D65という新しい光源が,1964年に定義されました。一方,補助標準の光には,補助標準の光B,D50,D55およびD75の4種類があり,それぞれの相関色温度は4874(K),5003(K),5503(K)および7504(K)です。補助標準の光Bは標準の光Cと同様に紫外部の分光分布の値が少ないので廃止する傾向にあります。したがって,各種の測定装置で測定した値を色空間で表現する場合には,上記の標準の光あるいは補助標準の光のどれかで計算して表現することになります。
JIS規格やCIE規格にはこれらの光源の分光分布や三刺激値が付表として与えられておりますので,それを利用して計算します。また,色度図上には黒体軌跡とともにこれらの光源の色度座標点が示されております。さらに,1993年からは標準の光CとD65についてのみ測定値からマンセル値への変換表も公表されております。標準の光D65による表現が一般に多く用いられております。このように,現在の色空間での色の表現はこれらの限定された光源で測定あるいは見た場合の色を表現したもので,蛍光ランプなどの実際の照明環境の下での表現ではないことに注意が必要です。日常生活に蛍光ランプはめざましく普及しておりますが,蛍光ランプによる標準の光はまだ定義されていません。しかし,最近では蛍光ランプによる色空間での表現ができるように,代表的な蛍光ランプを選定し,その分光分布が与えられておりますので,これを利用すると蛍光ランプでの測色計算が簡易的にできるようになっております。(H. K.)6b7406041

Q4.色を数値表現する色空間には色々ありますが,その違いや特徴は何ですか。

色を数値で表示するということは,言い換えると,色をなんらかの秩序に基づいて3次元空間に配列することである。そして色空間のそれぞれの違いは,どういう秩序に基づき何を座標軸にとるかの違いである。以下,わが国で用いられている代表的な表色系,つまり色空間について述べる。
マンセル系は,色の見えを色知覚の三属性である色相(Hue:H),明度(Value:V),彩度(Chroma:C)によって知覚的に均等に尺度化し,系統的に配列した色票と比較して,物体色を表す方法である。マンセル系による色の表示はHV/Cの形で,例えば,2.5R4.2/11.5(赤いリンゴの色)のように表記する。表示限度は約30,000色である。
XYZ系は,加法混色の原理に基づき,ある色と等色するのに必要な三原色光の混合量を求め,これを三刺激値X,Y,Zといって色表示の基本量とする。1つの色に対して1組の三刺激値が与えられ,もし,三刺激値の同じ色があればそれらは同じ色に見える。実際の色表示においては三刺激値を直接用いるのではなく,色のもつ明るさを三刺激値のYで,色みを三刺激値相互の比率である色度座標x,yで表す。すなわち,Y,x,yの順に,例えば13.37%,0.4832,0.3045のようである。表示限度は3,000,000色以上で,物体色だけでなく光源色も表示できる。
UCSは物体色の知覚的な差を定量的に表すことを意図したものである。XYZ系によって作られる色空間内では2点間の距離が一定でも,その色の存在する領域によって同一の色の差の知覚を与えない。そこで,知覚的に同じ色の差ならどこの領域でもほぼ一定の距離で示されるように,XYZ系を変換する試みがなされてきた。この新しい表色系をUCS(均等色空間)という。UCSによる色の表示は,L*a*b*系を例にとると,明度L*および色相・彩度を表す色座標a*,b*による。すなわち,43.31,47.63,14.12のようである。UCSはXYZ系を変換したものであるから,表示限度もXYZ系と同じく3,000,000色以上である。ただし,光源色は表示対象ではない。
(M. F.)6a7310024

Q5. インキで作り出すことのできる色の限界は?

今ここに真っ赤な自動車の印刷物があるとする。この印刷物は,暗室では見えないし,また,明るい所でも目を閉じると見えない。当たり前のことであるが,物に色があると一言でいうが,この場合,印刷物という物体と,物体を照らす光と,印刷物を見る人間の目の三つの条件がそろわなくてはならない。
我々が見た色を印刷や絵画,テレビ等によって複製することを色の再現という。色の再現には,ある色の分光分布まで正しく再現する方法と,色の見えだけを正しく再現する方法とがあるが,特殊な場合を除き後者の方法によっている。
印刷インキは,色材として顔料を使用し,その色材を用紙やフィルムに固着させるための樹脂ビヒクル,その他各種適性を付与するための助剤から構成されている。顔料と同様の発色色材として染料がある。染料は一般的に顔料に比べ鮮やかな色を発色するが,水に溶ける性質をもっているため,印刷インキには顔料が主体に使用される。ご質問の“インキで作り出すことのできる色の限界”は,使用色材である顔料によるところが大きい。
オフセット印刷を例にとると,印刷物は2ミクロン程度の薄いインキ皮膜で形成されている。その薄いインキ皮膜の中に数十~数百nmの顔料が色材として分散している。カラー印刷は,通常,黄,紅,藍の基本三原色と墨の4色の網点の重ね合わせでプロセス印刷される。理想のプロセスインキは,色光(約380~780nmの可視光線)の1/3の部分を完全に吸収し,2/3の部分を完全に反射する必要がある。現実のプロセスインキでは,黄が最も理想に近く,紅,藍については,それぞれかなり余分な吸収や反射が行われている。冒頭の赤い自動車の印刷の場合,紅インキの上に黄インキが重なって赤色を発色させる。印刷面に当った色光は,まず黄インキ皮膜を通過し,青紫光が黄顔料により吸収される。残りの緑色光と赤色光は,続いて紅インキ皮膜を通過し,緑色光が吸収される。残りの赤色光が紙面で反射され,再度インキ皮膜を通過し,私たちの目に入り赤色と感じさせる。このことからも分かるように,特に上にかかる色(顔料)の透明性,用紙の白色度は色再現の上で重要な要因である。最近では,重ねによる色の濁りを避け,さらに鮮やかな色再現を行うために,先に述べたプロセス4色に赤,緑,青紫の3色のインキを加え,7色で印刷する方法も取り入れられている。(N. M.)6a7311026
(M. G.)8b7402033

Q6.粉体塗料における調色方法を教えて下さい。

粉体塗料の製造方法と塗料特性によって粉体塗料をどの段階で調色するか,また,その調色方法も各種ある。ここでは,紙面の都合上,その主な方法を紹介する。
湿式造粒法による粉体塗料の製造では,まず溶液塗料を作成して,この溶液塗料から溶媒を回収し,樹脂粒子を作成する。この溶液塗料を調整する段階で,通常の溶剤型塗料と同じように調色し,そのまま溶媒を除去する。この方法で行う粉体塗料の調色は,高い調色精度が得られる。とくに,溶液塗料を作成する段階で,着色顔料が均一に非常に微細な粒子に分散できるため,着色力も大きく,色や塗膜外観も非常に良好に仕上がる粉体塗料ができる。しかし,欠点としては,粉体塗料のコストが高くなる。
一般的な粉体塗料の製造方法は,おもに固形の原料で配合し,この原料を加熱ローラーやエクスツルーダーなどの加熱,溶融練合機で,一度樹脂の軟化温度以上に加熱して,この状態で撹拌,混合し,樹脂や硬化剤,さらには着色顔料を均一に混合する。このとき,あらかじめ目標とする塗膜性能,色に必要とする着色顔料を所定の比率で配合して粉体塗料にする。したがって,調色は,粉体塗料の原料を配合する時点で,樹脂や硬化剤などとともに着色顔料も計量する。この時点で,粉体塗料が塗膜となったときに目標とする色を予測して塗料原料を配合するのが調色である。この予測は,原料の特性や塗装条件などの全ての変動要因を加味して行うため,高度の技術蓄積が要求される。しかし,色が少し異なる場合も発生し,このときは,再度粉体塗料の原料から配合しなおす場合と,有機顔料の製造方法と同じように,色が逆方向に移動した粉体塗料で補正する場合があるが,一般的には,始めの原料から配合をしなおす。これは,現在一般的に使用されている粉体塗料の平均粒子径が10μmから80μmと大きく,最大粒子径の樹脂粒子が,この平均樹脂粒子径の3倍から5倍あり,塗膜となったとき,樹脂粒子間の色の差が大きいと塗膜中に斑点状に目で認められるためである。このような塗膜を意匠として採用する場合には,粉体塗料の樹脂粒子を混合して調色することも可能である。
近年,粉体塗料もカラーコピー機のトナーと同じように,カラー原色粉体塗料の混合で必要な色を発色させる特許等も提案されているが,粉体塗料の樹脂粒子がトナーほど小さくないため,まだ一般的には普及していない。しかし,粉体塗料の調色方法の一つであると期待されている。(Y. N.)6a7302005

Q7.有機色素を用いた工業製品の退色や変色に影響を与える因子は何か。

有機色素の退色や変色は,光により引き起こされるもの(耐光性)と熱により引き起こされるもの(耐熱性)に大別される。
光による変色はすべての有機色素でおこりうる問題である。機構としては酸化反応に起因するものが多く,一重項酸素により引き起こされる場合と自動酸化により引き起こされる場合がある。
さて,塗料やプラスチックあるいは化粧品など工業製品としての耐光性を考える場合,有機色素分子自体の耐光性とともに,色素の製品中での存在状態や共存物質との相互作用についても複合的に考慮する必要がある。例えば,塗料用途としては耐光性が高いと言われている顔料でも,メークアップ化粧品に用いると著しい退色を引き起こしてしまう場合などがしばしば見られる。
このように製品としての耐光性に与える因子としては,1)製品中の色素の濃度,2)色素の会合状態や粒子の大きさ,3)酸化還元性やpHなど基質(プラスチックや溶媒)の性質,4)酸素濃度,温度,湿度など環境因子が知られている。色素の濃度は高い方が,色素の粒子径は大きい方が耐光性は高くなる傾向がある。基質の性質や環境因子は,色素の種類によってそれぞれ影響が異なる。
一方,有機色素の熱による劣化は,結合の切断や官能基の脱離など色素分子の単純な熱分解か,酸素との熱反応における部分酸化が主たる要因である。工業製品としての耐熱性は,レーザー光が用いられるような電子・情報関連の製品など特殊な例を除けば,製造時の加熱に耐えられることが要求される程度であり,耐光性に比べれば問題は起こりにくいといえる。ただし直接的な色素の分解反応などはおこらなくても,例えば先述の光による色素の劣化などは高い温度で加速される場合もあるので,このような副次的な変色反応に対する温度の影響は十分考慮する必要がある。(H. S.)6b7307018

Q8. 粉体塗料の場合,カラートナーのように,基本の3原色で作るのでしょうか。色の種類はスタンダードの色を用意してあるのでしょうか,それとも1色ごとに粉体粒子を作るのでしょうか。

ここに,白と黒の2色の粉体塗料があるとする。この2塗料を半々に混ぜ合わせて塗装してみると,灰色の均一色相の塗膜ではなく,白と黒のぶち模様の塗膜を形成する。粉体塗料の平均粒子径は一般に30μmから40μmであるため,塗膜になっても1粒,1粒の粒子が見分けられるからである。一方,カラートナーの白と黒を用意し,同様に半々に混合し塗布すると,灰色の均一膜を形成する。これは,カラートナーの粒子径が5μ以下であるため,目視では1粒子,1粒子を見分けられないからである。カラートナーの同上膜を拡大鏡で覗くと白と黒のぶち模様が見られる。上記の理由で3原色の粉体塗料を混ぜ合わせることによる調色はできない。
灰色の粉体塗料の1粒,1粒の中に白と黒の顔料が分散された状態になっている。粉体塗料に限らず,原色顔料は5色から20色程度使用される。原色数の増加に伴い,調色域が広くなる。
ほとんどの粉体塗料メーカーはスタンダード色を準備している。色数は数十色から数千色まである。日本の現状はスタンダード色が使用されるのは,ほんのレアーケースで,ほとんどはオーダーに応じて1色ごとに調色し供給されている。(H. K.)6c7306016

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