色材 Q&A 08環境関連

01塗料・塗膜   02印刷・インキ   03樹脂   04粉末関係   05分散   06色関係   07試験・分析   08環境関連   09その他

08.環境関連

Q1. 環境対応型塗料として“水性”はどうなっていくと考えられますか。

環境対策として各塗料メーカーは水性塗料や粉体塗料をはじめさまざまなシステムを含めた提案実施しつつあります。そのような状況下において,工業用塗装ラインのなかで被塗物の熱容量が大きかったり,また耐熱性に乏しい部品が被塗物に装備されているため乾燥温度が一定温度以上に上げることができない建設機械や自動車部品ライン等には粉体塗料の適用は困難なため,これらの分野では水性塗料が徐じょに増えていくものと考えられます。  また,焼付け型塗装ラインの代表である自動車の中上塗りラインにおいても塗料メーカーは水性塗料および粉体塗料の開発に力を入れており,そのなかでベース塗料については水性塗料が主流になると考えられ,中塗りおよびクリヤー塗料についてはVOC以外の品質,コスト等を含めた塗装に関わる総合評価が採用のポイントとなると思われます。 (T.Y.)8a7410046a

Q2. 環境問題に対する印刷インキ業界の最近の動きについて教えてください。①大豆油,②AF化溶剤,③無溶剤化。国内外に区分して状況が分かると幸いです。。

ご質問の三点は,近年,オフセット印刷インキでとられた環境対策の方法ですので,回答につきましてもオフセットインキに限定させていただきます。また,動向についてのご質問ですが,ご理解を助けるために背景も併せてご説明します。
AF溶剤 従来からオフセットインキに使用されてきた鉱物油には芳香族化合物が多く含まれていました。これらの成分には発ガン性が懸念されるものもあり,1985年にアメリカで溶剤の製造方法に関する安全基準(OSHA基準)が制定され,インキ用途には規制対象外の溶剤が使われるようになりました。1994年にはヨーロッパで,多環芳香族化合物の含有量3%未満を安全の目安とするCONCAWEレポートが出されました。日本では法的な規制はないものの,1997年に(財)日本環境協会によるエコマーク制度の認定条件に,オフセットインキには芳香族成分量が1%以下の溶剤のみを用いることとして採用されました。AF(アロマフリー)溶剤とはこれを指します。すでにPL法が施行されており,溶剤メーカーも積極的に代替を進め,インキの種類やメーカーにより異なりますが,現在ではかなり移行が進んでいます。 大豆油 植物油を溶剤と見なせば,一般のオフセットインキでは鉱物油と合わせて30~60%が溶剤成分で占められます。オーブンによる強制乾燥工程を経るヒートセットインキはもちろん,新聞や枚葉インキ等の溶剤浸透や酸化重合により乾燥,硬化するタイプでも鉱物油が揮発します。これらのVOC(揮発性有機溶剤)は大気中で光化学オキシダントを発生するなど環境に悪影響を及ぼします。この対策として広く行われるようになったのが,揮発性のない植物油の比率を増やす方法です。石油資源浪費の緩和と再生資源への移行の意味もあります。植物油は鉱物油よりロジン変性フェノール樹脂との相溶性が高く,単純に比率を増やしただけではインキのセットを遅延する等の弊害を引き起こしますが,上述のAF溶剤が芳香族成分を多く含むものより樹脂溶解力が低い,樹脂による相溶性の制御が比較的容易,および植物油より紙への浸透速度が速い植物油脂肪酸の一価低級アルコールによるモノエステルを使う技術が普及したことにより,従来インキに近い性能が実現できるようになりました。脂肪酸モノエステルのオフセットインキへの使用は古くから知られており,これが応用されたものです。アルコールのアルキル鎖長を調整し,樹脂溶解力がそれほど高くなく,紙への浸透速度の速いエステルが選ばれます。  この一つがいわゆる大豆油インキです。大豆の主要特産国であるアメリカのASA(アメリカ大豆協会)が始めたSoyシール認可制度(基準量以上の大豆油が含まれればSoyシールを貼ることができる)と,ISO14001を取得する事業所の増加に後押しされ,近年,特に日本市場で注目されるようになりました。ちなみに,大豆油含有量に関するASAの基準では,大豆油脂肪酸モノエステルも大豆油としてカウントできることになっています。当然ですが,環境対策という意味ではアマニ油であれ他の植物油であれ違いはありません。 Non VOC これをさらに進め,VOCを極力抑えたものがNon VOCインキです。通常,揮発性鉱物油を全て植物油成分に振り替えた溶剤組成がとられ,この意味で,ご質問の無溶剤化インキと同じと考えてください。明確な基準はありませんが,ASTM-D2369に準じてVOC≦1%が目安とされています。大豆油インキでは,少ないものでも,依然10%前後のVOCがあることから,Non VOCインキが期待されるところとなっています。大豆油インキよりもインキ性能への影響が大きいため,樹脂と溶剤系の相溶性に関してさらに検討が加えられました。植物油成分に関しては,上述の脂肪酸モノエステルの技術が使われる場合もあります。規制等が多く,日本に比べてインキ以外でも環境対応が進んでいる欧米において,市場への浸透度合いが高いようです。大豆油インキはアメリカで最初に紹介されましたが,現在ではヨーロッパと共にNon VOCインキに関心が移っています。 (T.N.)8b7410046b

Q3. 脱墨について教えてください。

木材資源の保護の観点から,近年とくに再生紙の需要が伸びており,現在では実に紙原料の半分以上に古紙再生パルプが使用されています。紙は植物繊維が結合してできているので,水に浸すと繊維がばらばらの状態になります。この繊維を抄けばまた紙になるのですが,その際に二つの利用方法があります。古紙を離解しパルプ化して,そのまま板紙等の原料として使用する場合と,パルプ化した後に印刷インキやトナーを除去して使用する場合です。後者の除去工程をとくに脱墨と呼びます。そして脱墨剤とはこうしたインキ除去用の界面活性剤を指します。
脱墨処理にはフローテーション法と洗浄法の二つの方法があります。洗浄法はパルプスラリーを単純に大量の水で希釈し,濾過・脱水工程を繰り返してインキやトナーを洗い落とす方法です。これに対してフローテーション法はパルプスラリー中に気泡を直接的に注入し,インキやトナーを脱墨剤によってパルプから気泡粒子に吸着させ,そのまま液面に浮上濃縮させた後,除去する方法です。
現在では脱墨技術の発達により,再生紙の品質がいちじるしく向上しています。(H.S.)8b7512074

Q4.最近,展示会などで生分解性プラスチックの展示がよく見られますが,印刷インキは生分解性を持つのでしょうか。

印刷インキの溶剤系を除いた一般組成は,①色材としての顔料,②顔料を分散し被印刷体へ密着させるための樹脂,③分散を安定化させる添加剤の3要素から構成されております。印刷の対象物がプラスチックである場合,印刷方法としてグラビア印刷,フレキソ印刷,オフセット印刷,スクリーン印刷等の様式がありますが,各種印刷様式の違いでインキの粘弾性や流動性,乾燥速度等の要求物性は異なります。さらに,印刷対象物表面とインキの密着性の要であるインキ樹脂が性能としての大きな要素になります。ここでは,プラスチックへの印刷分野で,圧倒的な物量を有しているグラビア印刷インキを対象にします。
一般に,生分解性プラスチックの樹脂としては,脂肪族ポリエステル系,ポリ乳酸系,デンプン系等があります。製品化では,それらの樹脂はフィルム化の段階で複合化することにより,強度性能や固さの調整をする検討もされています。
基本的にそれぞれの被印刷体であるプラスチックフィルムの表面電化,硬柔度,濡れ指数が異なると,インキ用樹脂もそれらに密着するよう設計しなければなりません。従って,各種ある生分解性プラスチックを一般化した結論をだすことはできませんが,最近,ポリ乳酸系フィルムに関しては,これ用の印刷インキとして,インキ用樹脂を生分解性にしたものが開発されBPS(生分解性プラスチック研究会)のPL(ポジティブリスト)に掲載されました。しかし上段に記載した通りインキ中には色材として樹脂に顔料が分散されており,通常使用されるこれら顔料は無機顔料,有機顔料共に生分解性を有するものではないことより,インキとして生分解性であるためには生分解の色材の開発が今後の課題になります。なお,インキの中にはお菓子等の食品へ印刷する目的で,食品添加物だけでできている特殊仕様の可食性インキがあります。このインキの一部には色材としてイカ墨や葉緑素等の天然色素を用い,生分解性の天然ワックスで処方されているものがあります。これであれば複合材料であるインキとしても完全に生分解性でありかつ安全性に優れているためコンポスト袋や飼料袋を生分解性フィルム化する場合のインキに適しています。 (T.Y.)8a7502052

Q5. LCAを考えた場合,塗料メーカーとしてリサイクルおよび環境に対応する方法にはどのようなものがありますか。

LCAにもとづいて塗料を総合評価する方法は,まだ多くの人が受け入れる形で確立されてはいませんので,どのような方法がより優れているのかを客観的に判断するのは困難です。
工業塗料は,塗料自体はより低エネルギーで製造できたとしても,焼き付け温度が高い,塗装環境の整備に多くのエネルギーが必要である,廃棄塗料が多い,新しい設備が必要であるなどの問題がある場合が多く,塗料メーカーのみで解決することは難しく,ユーザーと連帯して開発を進める必要があります。
塗料メーカー自体でできる確実な方策の一つは,塗料製造過程で出る廃棄物をリサイクル使用する方策の確立です。有機溶剤の回収再使用は以前から行われていますが,普通の反応釜を使用した蒸留回収では,溶剤を100%回収することはできず,溶剤を60%程度含んだ状態で廃棄する必要があり,この廃棄物の焼却処理によりまた多くの炭酸ガスが発生します。高温・低圧で一気に溶剤を回収する装置を使用すれば,溶剤を100%回収できると同時に,廃棄物は固形物となりそのままの廃棄が認められますので炭酸ガス発生量は1/20になり,地球環境保護におおいに貢献できます。また,この固形物は将来,汎用塗料の原料として利用できるようになると考えられます。
原料の選択は,製品の性能を変えない範囲では塗料メーカー自体でできるエコロジーです。食用油の副生品である大豆油脂肪酸を使用した長油アルキド樹脂,利用価値の少ない米ぬかなどから回収した脂肪酸を利用した短油アルキド樹脂などのエコ製品の原料に,さらに廃ペットボトルの成分を加える研究が進んでいます。
塗料製造工程を変えることも同上です。塗料に使用する顔料は,日本では水性塗料が少ないこともあり,溶剤型塗料と同様に粉体顔料を使用します。アメリカでは製造した顔料スラリーを乾かすことなくそのまま水性塗料に使用します。日本でも水性塗料の比率が増加すればこのような無駄は無くなると思われます。
ユーザーとの連携によりエコロジーを進める場合,塗料メーカーとしても,塗装工程省略,再溶解する架橋塗膜,常乾電着の開発など,エコロジーに必要な新しい選択支を提案していく必要があると思います。
(M. G.)8b7402033

Q6.防食塗料の環境対応に関する開発はどのようなものがありますか。

重防食塗料における環境対応塗料の開発は大きく分類すれば,1.有機溶剤の削減および無溶剤化と,2.防錆顔料として含まれている有機重金属化合物の塗料配合からの除去の2項目が挙げられる。以下に各項目に対する対応について示す。

1.塗料中に含まれる有機溶剤の削減,無溶剤化
塗料は各種展色剤をなんらかの有機系溶剤(VOC)で希釈したり,洗浄したりして,その製造から塗装にいたるまで数々の工程の中でVOCを大々的に使用し,大気中に飛散させて地球環境に大きな負荷を与えている。防食塗料の分野における環境対応として脱VOC化の技術を挙げると,無溶剤型塗料,水系塗料,粉体塗料およびその他(テープ,フィルム)が挙げられる。
上記四つの中で防食塗料分野において最も適用が進んでいるのは無溶剤型塗料である。塗料系としては,エポキシ樹脂系,ポリウレタン樹脂系とビニルエステル・不飽和ポリエステル樹脂系があり,それぞれの樹脂特有の優れた防食性,耐薬品性,物性を有しているが,これに無溶剤型塗料の特徴である厚膜塗装の効果が加味されその特性がさらに活かされたものとなっており,長期間安定した防食性が必要とされる鋼構造物や激しい腐食を受けている部分の補強防食などへの適用を前提とした塗料が開発されている。
一方,水系塗料は,防食塗料の分野では屋外での塗装が前提となることから,環境,気象条件に左右されやすい水系塗料の普及は遅れているが,近年その性能レベルは飛躍的に向上してきており,様々な性能,用途の塗料が開発されてきている。

2.防錆顔料として含まれている有機重金属化合物の塗料配合からの除去
防食塗料には従来より,鉛,クロムなどの有害重金属化合物が防錆顔料として含まれている。塗膜中にある限り問題ないが雨などによって流出したり,塗り替え時,塗膜を剥離する際に塗膜片が飛散することにより環境に影響を及ぼす。そこで有害な重金属化合物を塗料配合から除去する努力が行われている。一例としては,上記鉛,クロム系からリン酸塩,モリブテン酸塩,ホウ酸塩などの無公害顔料への代替で対応できるようになってきている。(Y. T.)8a7312028

Q7. 印刷インキ製品の安全性に関するPL法と食品安全衛生に関するNL規制・PL規制がありますが,その相違とアメリカのFDA規格との関連性について教えて下さい。

いわゆるPL法(製造物責任法,Product Liability)とは,通常有すべき安全性に欠陥のある物品から被害者を保護するために制定された法律である。設計上,製造上,警告表示上等の欠陥から生じた被害について製造業者は無過失責任を負う。一方,食品安全衛生に関するPL規制・NL規制は製品に配合使用する原材料に関する規制であり,配合可能な原材料を規定したPL(Positve List)規制と,配合使用を控えるべき原材料を規定したNL(Negative List)規制がある。印刷インキ工業連合会では,食品包装材料用印刷インキについて,その内容食品の衛生的安全性を保持することを目的に,厚生省(現:厚生労働省)の指導のもとに自主規制(NL規制)を作成・実施している。これは,当然のことながら,NL規制外の原材料であれば使用しても良いと保証するものではない。常に安全性に配慮し,原材料の使用選択を行うことが,製造物責任を果たすためにも重要である。FDA規格はアメリカの連邦食品医薬品化粧品法に基づいて制定されたPositive Listである。食品包装材料用の印刷インキが,その使用方法から見て,内容食品へ意図的に移行する場合は,間接食品添加物として規制の対象となり,リストに登録された原材料しか使用できないことになるが,そのような例は一般には見られない。(N. H.)8a7309021

Q8. 水性塗料におけるリサイクルの回収率の上限はどの程度でしょうか?

水性塗料のリサイクルシステムについては,いろいろな方法が提案されていますが,そのなかで最も回収率が高いシステムは,「目的の被塗物に塗着しなかった塗料ダストをブース循環水中に捕獲した後,一定の濃度になった塗料希薄液を,限外ろ過膜を用いて濃縮し回収塗料を得る方法」だといわれています。
これらの方法は日本においても鋼製家具や自動車部品等の工業用塗装ラインにすでに導入されており,実ラインで焼付けタイプの塗料では95%以上,強制乾燥型塗料においては90%以上の回収率の実績があることが明らかになっています。 (K.U.)8a7409045

Q9. 印刷インキおよび印刷資材の廃棄についての基本的な考え方は?

印刷インキ工業連合会では,基本的には廃インキ,廃缶などは,インキを購入された側の責任において処理頂くようにお願いしている。インキの製造会社としては,環境問題が問われている現状から,できるだけ廃インキが発生しないインキ容器,インキ供給システムを考えて下記の取り組みを実施している会社もある。

1)大量に使用されるオフ輪インキ,新聞インキについては,従来のドラムから1トン以上のトートタンクに切り換える。トートタンクは,エコマーク認定のリターナブル容器にして,廃缶,廃インキが発生しないパイピング方式を推進する。

2)小型容器の場合,テーパー缶にして廃缶をスタックすることにより廃棄処分しやすいように,あるいは減容積化。最近,欧米ではカートリッジ缶による自動供給システムが普及している。このシステムは,廃インキが大幅に少ない,ヘラを必要としない,監視作業が軽減されるなどの長所がある。

3)プロセスインキよりも特色インキの方が廃インキが発生しやすいので,コンピューターカラーマッチングで調色して,必要なとき必要な量だけ供給できるシステムを実施している。

印刷インキおよび印刷資材の破棄については,印刷インキ工業連合会(電話:03―3580―0876)から『産業廃棄物処理ガイドブック』という冊子が出版され,廃棄の方針,法律や方法について詳細に記載されているので,必要な方はご一読下さい。(N. N.)8b7306015

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