色材コラム

色とデザイン

Vol.08 鉄道車両の色彩

日本車輌製造(株) 鉄道車両本部 技術総括部 デザイングループ
近藤 克実(Kondou Katsumi)
趣味:鉄道模型

 

人々に強いイメージを与える鉄道車両のカラーリングは,どのようにして決まるのか,また決めているのか。人それぞれの好みが大きく分かれてしまう色彩を検討することは,デザイナーにとって悩まされることの一つです。ここでは車両メーカのデザイン担当の立場から車両の色彩検討について基本的な考え方を紹介します。

鉄道車両と外部色について

1. フォルムと外部色

車両は,直方体が連続した非常に細長い形状であり,動きを持ったものです。外部色を考えた場合,列車のフォルムとムーブメントに最もふさわしく,安定して感じられる塗り分けパターンであることを前提にしています。昔からの主流として,動きの方向に流れる横の帯状パターンや,上下に分割したパターンなどは,快適な速度感や安定感を与え,また非常に自然な感覚であるため,現在でも多く採用されています。
一方,近年登場する新型車両には,これら定番の塗り分けの他に,方向性,流れなどとは全く無関係なブロックパターンやドットパターンといったものもあります。これは,デザイン展開の段階から,色彩とのマッチングを考慮しながら形状検討を行う手法が採られるためで,パステル系や原色系が多く用いられるようになってきました。

2. イメージと外部色

色には,その色がもたらす一般的なイメージがあります。例えば,赤は情熱・暑い・愛・危険などであり,青は理想・永遠・理知・さわやか・冷たいなどが挙げられます。このような色自身の持つイメージも車両のイメージに直接的に影響を与えますので,暖色系,寒色系といった色の使い分けにも配慮したものとしています。

3. 環境と外部色

沿線環境と車両との関係は,様々な環境の中を走る点景として関わってきます。外部色を決定する際,環境を同化させる方法と,環境と対比させることで互いに引き立たせる方法とがありますが,いずれの場合においても環境を破壊してしまう色彩やパターンは好ましくありません。車両のカラーリングにあたっては,路線のあらゆる環境に100%整合させることは事実上不可能ですが,走行地域をイメージする海や山,あるいは沿線の特定地域を連想させる自然や花の色を使うことによって,効果的で心地よい点景として機能するように配慮しています。

4. メディアと外部色

車両を一つのメディアとして捕らえた場合,外部色を決定させる要素には,「路線識別」、「C.I. (コーポレートアイデンティティ)」があります。大都市における通勤電車や地下鉄などには,路線毎にシンボルカラーが設定され,乗客に対して認識効果を高めるとともに,誤乗防止などといった機能を持ち合わせています。よって,通勤車両ではラインカラーによって外部色が決定されるということも少なくありません。また,近年の傾向として,C.I.が外部色に大きく関係する例も数多くなってきています。

鉄道車両と外部色

車両の室内色

車両の室内デザインに必ず求められるのは快適な居住性です。その演出には色も重要な役割を果たしています。車両は公共交通機関であり,不特定多数の人々を対象とするので,色を検討するにあたっては好き嫌いや圧迫感を感じさせない配色,飽きのこない色彩というのが基本的な考え方になっています。

最近では,使用目的に応じて専用の車両が投入される傾向にあり,室内についても用途の明確化を図った配色が数多く採用されるようになってきました。つまり観光需要を目的とする車両では,楽しさを演出するため一段と華やかな多色使いになり,落ち着きを求めるビジネス需要の車両では,よりシックな配色へと変化してきています。また,内装を構成する材料に新素材が積極的に導入され始めた現在,これまでにない配色・新しい色彩の車両が増えてきています。

 

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