色材コラム

絵・イラスト

Vol.11 色鉛筆の魅力

イラストレーター
河合ひとみ(Kawai Hitomi)

職業:イラストレーター。生涯学習センター,カルチャー教室で 色鉛筆画の講師を務める。都内で定期的に作品展を開催。
著書:「あっちゃんとあそぼう」(絵本) 1980年 こずえ刊・絶版

  • 「素敵な色えんぴつ画入門」 2000年 日本文芸社刊
  • 「なついろ 夏の色えんぴつ」 2002年 マール社刊
  • 「はるいろ 春の色えんぴつ」 2003年
  • 「あきいろ 秋の色えんぴつ」 2003年
  • 「もっと素敵にもっと楽しく色えんぴつ画を描こう」 2004年 河出書房新社刊

「小さい頃から絵はお好きだったんでしょう?」と,よく訊かれます。

水彩絵の具のセット,筆,パレットなどを買ってもらった時は,嬉しくて,ちょっと大人になったようでワクワクしたものですが,なかなか思うようにいかず,小学校の絵の時間は好きではありませんでした。私は,本物っぽく描きたかったようです。けれども図工の先生は「こういう絵は下手なんだ」と酷評しましたし,担任からは「もっと子どもらしい絵を描きなさい」などと言われて,『そんなこと言われても……』と,途方に暮れたものでした。……子ども心,傷つきました。

そんな私が初めて絵をほめられたのは,6年生の図工の時間に石膏デッサンをした時でした(ミロのヴィーナスの顔の部分だったと思います)。隣のクラスの担任の先生から,卒業記念にぜひほしいと言われて,超びっくり!(勿論さしあげましたけれど。)

姫リンゴ

「姫りんご」は、マール社刊「あきいろ」に掲載されています。
「図工」から「美術」に昇格した中学では――えーと,一体どんなことをしたのでしたっけ――記憶にあるのは,何か自分の持ち物を鉛筆で描け,と言われて,ハンカチと腕時計を描いたのですが,思いがけず先生から「質感の違いがよく出ている」とほめられてビックリ。――どうも,数少ないほめられたことだけを大切にしまっておいたようです。多分私は,絵の具と水と筆で描くのが嫌いだったのだと思います。と言うよりも,要するにパレットを洗ったりするのが面倒だったのでしょう。それに,折角「いい色」が作れても洗い流さなければなりませんでしたし。

高校で美術が選択科目になった時は,心底ホッとしました。油絵にも興味はありませんでした。

大学に入った頃,私と違って小さい時から絵の上手かった姉が「細密画」というものを始めました。『一体どんな絵なんだろう……』と,描きかけの絵をこっそり見た時の衝撃は強烈でした。こんなジャンルの絵があるんだ!という――。それからはもう自分もやってみたいという気持ちしかありませんでした。けれども,時間もお金もない学生の身。姉の使っていた画材はとても高そうでしたし,全部を自力で揃えるのは無理に見えました。それに「明らかなマネ」はしたくありませんでした。考えに考えた末,思いついたのは,色鉛筆で描くことでした。硬筆だし,芯先を細く削れば細かい部分もきれいに描けるのではないか……漠然とではありますが,確信のようなものもありました。当時はまだ技法書などありませんでしたし,画材としての色鉛筆もずい分探しまわったものです。銀座の小さな画材屋さんで「ドイツ製色鉛筆」の字を見つけた時の気持は今も忘れることはありません。これが,長い試行錯誤の道のりの始まりでした。

使ってみると,色鉛筆は手に取った次の瞬間から描くことができる――つまり,パレットや水,筆などの道具を介さずに描き始められ,後片付けの手間も要りません。また,重ねぬりをして色を作っていくので,いつでも,何度でも同じ色を作ることができます。絵を私から遠ざけた原因が見事にクリアされてしまったのです。この気楽さは,何とも大きな魅力でした。

ごくごく初めの頃は,ふつう(?)に描いていました。ある時,スミレの花を描いていて,何かもっと別の技法でもないだろうか……と,試しに「うすぬり」をくり返してみることにしました。ほとんど力を入れずに,軽~く,気長に,思い通りの濃さになるまでくり返すのです。すると,どの方向にぬったかも全くわからない,不思議な優しい感じのスミレになりました。これが「重ねぬり」の原点です。このことを試していなかったら,今ほど自由に色作りをすることはできなかったでしょう……。

左)普通に描いたスミレ   右)うすぬりをくり返したスミレ
勿論,失敗もありました。葉脈のはっきりした「葉」を描いていた時です。葉の色を大体ぬってしまってから,葉脈による細かい陰影を入れようとしたのですが,うまくくっきり入りません。それならばと,順序を逆にして最初に暗い色でその陰影を入れてみたところ,大正解でした。明るい色をしっかりぬってしまうと,その上に暗い色はのりにくいのだと知りました。――以来,暗い色はなるべく初期の段階で入れるようにしています。ただ,これもケースバイケースで,明るい淡い色のモチーフの場合は,仕上がりがあまり暗くならないように,淡い色から(うすぬりで)始めることもあります。けれどもやはり原則は「暗い色を先に」です。

文字通りに試行錯誤をくり返しながら描いてきた色鉛筆画ですが,絵を描くことを自分の仕事としていくとは予想していませんでした。子どもの頃の自分からは全く想像もできなかったことです。色鉛筆との出会いがなかったら――。

ホームページ:http://www.pencil-work.com

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