色材コラム

色とデザイン

Vol.03 おしゃべりな色彩

日本ペイント(株) デザインセンター 
企画部長長谷川 博志(Hasegawa Hiroshi)

経歴:神戸商科大学・経済学部卒業後、日本ペイント・デザインセンターにて環境色彩計画のディレクションに従事。・日本色彩学会 資格検定等対応委員会・委員長・(社)日本塗料協会 色彩部会・副部会長
著書:『カラーコーディネーションの実際』(共著),東京商工会議所『塗装ハンドブック』(共著),朝倉書店 他
趣味:クラシック鑑賞,陶芸

Vol.03 おしゃべりな色彩

日本各地の自治体が,色彩誘導指針とも呼ばれる地域を対象にした「環境色彩ガイドライン」を盛んに制定している。従来の景観条例に記載されている色彩指針は,「けばけばしい色彩を使わず,環境に調和した色を選ぶこと。」のような正しくはあるがファジーな表現が大半であることの反省から,より具体的に色の三属性やトーンを用いて詳細に建築物などの色彩ガイドラインを定め,地域景観の向上に取り組んでいる。

私も日本の数都市の環境色彩ガイドラインづくりに参画をしたが,最近では「長野県白馬村」のまちづくり環境色彩計画の策定に従事した。白馬村の魅力をより高めるため、優れた景観で観光客をもてなすための環境色彩基準を設定し,観光立村としての白馬村のまちづくりに活かしていこうとの想いで,“もてなしのしつらえ”をコンセプトの中心に据えた。すなわち,《豊かな自然が主役であり,建物は自然を引き立てるための色彩で彩色すべきである》との考え方である。このキーワードを抽出するために,種々の現地調査とスタッフとのディスカッションを重ねたが,その過程で『ごちそう』という言葉に出会った。

白馬村の全景(長野オリンピックのジャンプ場スタート地点から)

白馬村まちづくり環境色彩計画

私も日本の数都市の環境色彩ガイドラインづくりに参画をしたが,最近では「長野県白馬村」のまちづくり環境色彩計画の策定に従事した。白馬村の魅力をより高めるため、優れた景観で観光客をもてなすための環境色彩基準を設定し,観光立村としての白馬村のまちづくりに活かしていこうとの想いで,“もてなしのしつらえ”をコンセプトの中心に据えた。すなわち,《豊かな自然が主役であり,建物は自然を引き立てるための色彩で彩色すべきである》との考え方である。このキーワードを抽出するために,種々の現地調査とスタッフとのディスカッションを重ねたが,その過程で『ごちそう』という言葉に出会った。

基本方針

建築物の推薦色カラーパレット


花の色彩展開例

『ごちそう』は,氾濫するテレビのグルメ番組の影響か,松坂牛・フォアグラ・伊勢海老などの高価な食材を使い華麗に盛り付けられた食事を連想しがちである。しかし,『ごちそう』は,漢字では『ご馳走』と書き,高価な食材とはまったく関係なく,お客様の好物の食材や旬の食材を文字通りみずから走り回って集め,額に汗して調理をし,もてなす料理であることを『馳走』の漢字が示しているのである。言葉の本質を,形(モノ)ではなく心を,雄弁に語る日本語(漢字)のすばらしさを改めて知らされた。

色を表し伝える方法として,色見本を用いる方法と,色名を用いる方法がよく用いられる。色の現物ではなく言葉に置き換えて色を表示する色名方式には,JIS(JIS Z 8102:2001「物体色の色名」)で,“慣用色名”と“系統色名”の体系に分類されている。系統色名が,色の様子を組み立てて表すのに対して,慣用色名はある時代に人々が慣用し定着した固有の色名が用いられている。[■朱鷺色],[■珊瑚色]などはイメージできるだろうが,[■新橋色]や[■納戸色]はどうだろうか。[■新橋色]は,明治末から大正時代にかけて東京新橋の芸者達に好まれたブルー系の色である。(ちなみに,系統色名では“明るい緑みの青”と表現し,マンセルでは「2.5B6.5/5.5」と表記される。)  [■納戸色]も,物置部屋のイメージからはブラウン系を想像させるが,江戸時代に流行したブルー系の色である。(系統色名:強い緑みの青,マンセル:4B4/6) この色名の由来は諸説あり定かではないが,納戸に藍を保管していたことからこの名がついたとか納戸の垂れ幕に用いられた布の藍染め色とかの説がある。

色彩文化との言葉が示す如く,時代時代の社会動向が新しい色彩を創造し,その色名が時代の雰囲気を表現し,後世に伝えていく。 色彩(色名)もまた単に色を表示するだけでなく饒舌に多くのことを我々に語りかけているのである。

21世紀初頭の現在を代表する色としてどのような色名が生まれ,後世に残されていくのだろうか。 またその色彩は,のちのち現在をどのように語ってくれるのだろうか。

■参考引用文献
・東京商工会議所編:  「カラーコーディネーションの基礎」(2001)
・小学館辞典編集部編: 「新版 色の手帖」(2002)

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