色材コラム

色の話

Vol.12 味覚表現と色彩

東洋インキ製造株式会社 CNK本部
大松 敏孝(Ohmatsu Toshitaka)
職業:東洋インキ製造株式会社 CNK本部
趣味:色創作物プランニング・料理・食物染色・陶芸

2015年8月掲載

 

Vol.12 味覚表現と色彩

色を「色」として意識したのは,小学校3年生のころだったのではと,模糊とした想いがめぐります。石油ランプが明かりの主役,煤けた火屋磨きとカブラへの油差しは私の日課で,精製の悪い石油はカブラの底に水を溜め,石油に混ざった「水」を裏の小川に流したときに出来る鮮やかな虹色が美しく,少しずつ何度も何度にも分けて水に流したことが澄明に蘇ります。大手印刷会社研究所から,色を求めて現在の会社で色の仕事をしているのもあの時の,水面に描かれた鮮やかな虹色を,体の何処かが求め続けているからかもしれません。

私は,料理を趣味としているところから,スーパーマーケットに赴くことが多く,一人でも足繁く出掛けます。素より色や彩りが好みであるうえに,仕事としても印刷物を観ることから,パッケージの色には特に興味をもっており,スーパーマーケットではパン包装やスナック菓子などの軟包装から,チョコレートや加工食品などのカートン包装まで形や国内・外製品を問わず,極めてユックリと店内を観て周ります。面白い包装形態や変わった色遣いのパッケージの探索は,得意先での講演や美術大学の授業で実物を活かせること?がもう一つの理由かもしれません。

その中で,興味深い色遣いの一つに食品の「カレールー」のパッケージが挙げられます。

現在,国内のスーパーマーケットやデパート,コンビニエンスストアーで見かけるカレールーはハウス食品㈱,エスビー食品㈱,江崎グリコ㈱,レトルトカレーの草分けといわれています大塚食品㈱,そして㈱オリエンタルのものが陳列棚を占めており,他のメーカーのものはほんの僅かで,この傾向は隣のスーパーマーケットやデパートでも同じです。

二昔前ごろ,全てではないものの,大凡のパッケージの色は内容とパッケージが一致する色が用いられ,唐がらしのパッケージには『赤』を,チョコレートは『焦げ茶色』を,カレーの場合「カレーは黄色いから」「カレーは辛いから」とカレー粉のパッケージの色は内容物を象徴する黄色と赤色を用いることが主で,私の記憶にも黄色いパッケージが想い浮かびます。

近年,パッケージの色や形・デザインは,印刷技術や画像形成技術の向上また,購買者の価値観の変化等から,より個性的でカラフルに,良く目立つものが増え,従前の内容物を意識した色遣いのパッケージは少なくなりました。そのなかで京都府八幡市に本社を持つクロレラ販売本社(株)の乳酸菌飲料「プレプレ」のパッケージデザインは,内容物を想像するのが難しいほど晴やかで,鮮やかな色彩とデザインで買い物時の目を楽しませてくれます。

最近のカレールーのパッケージデザインも例外ではなく,昔のように黄色や赤だけのデザインは少なく,各社とも出来上りの盛り付け例を,実においしそうな美しい写真で表現し,調理の参考と購買意欲を沸か,彩りの鮮やかを競っています。このカレーパッケージである面白いことと嬉しいことに気づきます。それは大手カレーメーカー3社のパッケージを比べると味覚表現の色遣いが極近似していることです。

先ず辛味度の表示語ですが「甘口・中辛・辛口」の3種類に揃っていることです。企業間の競争原則からは,他社と違うことをアッピールし,自社製品を優位とするのが通念ですが,カレーのパッケージにはあてはまりません。従って「極甘」や「凄辛」「激辛」など,メーカー独自の辛味度合の表示語は見当たりません。また,一部の製品を除き各社とも「辛味度の表現とパッケージの主張色」が類似しており,甘口は赤系,中辛は緑系,辛口は紺系の『極近似した色』のパッケージであることも興味深いところです。

具体的に製品軸で比較すると,ハウス食品の「バーモントカレー」,ヱスビー食品の「とろけるカレー」,江崎グリコの「熟カレー」は,それぞれ『甘口=赤,中辛=緑,辛口=紺』と色が揃っており,メーカーが異なってもパッケージの主張色は極めて近似した同系色が用いられています。用いている色の「赤・緑・紺」を色相環上で見ると,赤の補色の位置に緑があり,赤と緑の中間の位置に紺が存在し,色彩学上からも視認度の高い色の組み合わせでパッケージを構成していることがわかり,色の特性を上手に活かして使われています。

また,辛味度合を軸に「中辛」を例にみますと,ハウス食品=バーモントカレー/こくまろカレー,エスビー食品=とろけるカレー/GOLDENCURRY/挽き立ち熟成カレー,江崎グリコ=熟カレー/10種類野菜と果実をとろーり煮込んだカレー,のすべてが「緑色」で,極めて近似した色のパッケージとなっています。

これに類した例は煙草のパッケージで,ライト系はデザインのどこかにブルーを用い,メンソール系はグリーンを用いることが世界的に共通しています。カレールーのパッケージはまた,販売価格とパッケージ色についても各社共通の類似傾向があり,低価格製品の大部分が4色プロセス印刷のみであるのに対し,中級価格製品は4色プロセス印刷に金刷り若しくは金箔押しが加えられ,最も価格の高いものは中級価格製品の様態に「黒」をポイントとして加刷されていることも興味をそそられます。

最近,ユニバーサルデザインへの関心が高まるなか,カレールーのパッケージデザインは,「色」を有効に活用し,味のジャンルの識別を共通簡便化させ,モノ選びの利便面に繋げていることは,一消費者として大変有り難いもので,生活の中に「色」が活きていることを実感します。

メーカーという垣根を超え,粛々と購買者の利便性を「色」で思考されていることに拍手を贈りたいと思います。

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